大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和25年(ヨ)296号 決定

申請人 大西章 外十九名

被申請人 新大同製鋼株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

(一)  申請人深谷貞雄、内田孜、藤田一男及び杉田宗一に対する関係につき

被申請人会社が昭和二十五年七月三日附をもつて申請人等に対してなした解雇の意思表示は本案判決確定に至るまでその効力を停止する。

(二)  その他の申請人等に対する関係につき

申請人等の本件仮処分申請を却下する。

三、理  由

第一申請人深谷貞雄、内田孜、藤田一男及び杉田宗一に対する関係について

被申請人会社が申請人等に対し昭和二十五年七月三日附をもつて解雇の意思表示をなしたこと及び右解雇の理由は申請人等が後記争議に際し昭和二十五年六月十七日被申請人会社星崎工場圧延課長小西宗明を殴打したというにあること当事者間争のないところであるが、被申請人提出の各疏明資料によつても、右小西課長を殴打した加害者がはたして申請人等であつたかどうかは判然としないのであつて、右殴打事件をとらえて申請人四名の解雇の理由となすことは軽卒に失し不当の処置といわねばならない。

よつて右解雇の意思表示は一応無効と解せられるのであり、かつ右解雇によつて申請人等はその生計の途を失い解雇無効確認訴訟の本案判決確定をまち得ない窮状にあること、申請人等提出の疎明資料によりこれを窺うに難くないから、申請人等の本件仮処分を相当としてこれを認容し主文第一項のごとく決定する次第である。

第二その他の申請人等に対する関係について

被申請人会社が申請人等に対し昭和二十五年七月三日附をもつて解雇の意思表示をしたことは当事者間に争のないところであり、申請人は右解雇の効力を争うから先ずこの点について考察する。

一  本件解雇の経緯につき当事者の疏明資料によつて認められる事実関係及びこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

(一)  全日本金属労働組合愛岐支部新大同製鋼星崎工場分会(以下単に星崎分会と称する)は昭和二十五年四月十七日被申請人会社に対し基準賃金三千円の引上げ、組合案による労働協約の即時締結などを要求し、被申請人会社はこれに対し賃金遅払一ケ月半に及ぶ会社経理の現況においては三千円の賃上げはとうていできない、協約については被申請人会社も会社案を作成中であるから近く意思表示をなす旨囘答した。しかし星崎分会は右囘答を不満とし被申請人会社との団体交渉を要求し五月四日団体交渉を行つたが、双方の主張が一致せず結論を見るに至らなかつた。その後被申請人会社の築地、熱田、大江、安城及び川崎各工場の組合もほぼ同趣旨の要求を提出し、更に五月二十九日星崎分会及び右五工場の組合の連合体である新大同製鋼労働組合連合会(以下単に連合会と称する)も右星崎分会等の要求を取上げ被申請人会社との間の団体交渉を要求し、六月二日両者の間に団体交渉が行われたが前同様なんらの結論を得ずして終つた。そこで同日星崎分会は右連合会における中央闘争委員会の指令にもとづき同分会の各職場に対し会社製品の出荷停止を実施すべき旨命令し、その結果後記のような出荷妨害の各事件が惹起せられた。

イ 六月十日午前十時頃被申請人会社は申請外丸太運輸株式会社に依頼し星崎工場の製品である線材を搬出せしめようとし、丸太運輸会社はトラツク二台をもつて線材工場製品置場に赴き人夫十名を使用して積荷を開始したところ、組合側は直にサイレンを吹鳴して組合員の非常呼集を行い工場の正門、中門及び南門を閉鎖してその内側に集結した。そして製品の出荷阻止の手段として製品置場の出口及び各門の内側に鋼材、電動車、台車、ドラム鑵、酸素ビン、木馬等を立て並べてバリケードを築いた。正午少し前トラツクの積込が終り人夫の手でバリケードを取除きつつ南門に差しかかり、警備員に開扉を命じたが応じなかつたので、山田総務課長が自らこれを開扉したところ組合員数名が直にこれを閉鎖した。そして組合員はトラツクの前にスクラムを組みトラツクが発進せんとするや多数の者がエンジンの前に立ちはだかり手をもつてこれを押し返した。このとき分会委員長小池長之助が来り会社側に対し「只今大西委員長が南警察署長とこの行為が業務妨害となるかどうかにつき議論したが納得できぬので、検察庁の意見を聴きに行つた。同委員長が帰るまで現状維持にしておいて欲しい。」と申入をしたので、榎並工場長はこれを諒とし線材の出荷を一時中止した。しかるに午後三時頃になつても大西委員長の囘答が得られなかつたので、工場長はとにかく出荷を始めることを決意しその旨組合に通告したところ、組合側は再びサイレンを吹鳴して非常呼集を行い前同様スクラムを組みバリケードを築いてトラツクの発進を阻止した。そこでトラツクは他の門から出ようとし方向転換をなすや、組合員は「それ逃すな」と叫びながらトラツクのステツプやポラーに飛び乘り又車輪の前に木材、石材等を投げ入れてその運行を妨害したので、ついにトラツクは出門を断念するに至つた。組合員はただちにトラツクの側板を下ろし積込んであつた線材を道路上に投げ落した。このようにして双方対峙しているところへ名古屋市南警察署長が来り小池委員長に対し、組合側の行為は丸太運輸会社に対する業務妨害となるからもう十分間かかる状態を続けるならば検挙する旨申し渡したので、小池委員長は組合事務所に帰り協議した結果午後四時十分頃警察の勧告に従い本日の出荷阻止行為を打切る旨宣言し組合員は逐次かい散した。

ロ 六月十四日午前十一時半頃被申請人会社は前記丸太運輸会社をして星崎工場の線材を搬出せしめようとし、工場長より小池委員長に対しその旨通告したところ、組合側は出荷阻止は合法的な争議行為であるからあくまでこれを実行すると主張し、会社側は出荷妨害は違法争議行為であるからあくまで出荷作業を強行する旨言い渡した。組合側はただちに工場の各門を閉鎖しピケを立てて監視を開始した。午後一時五十分頃丸太運輸会社のトラツクが二台入門し線材工場へ製品積込のため近付こうとしたところ、既に線材工場の東側入口に通ずる道路上には多数の組合員が坐り込んでおりその接近を阻止せんとしたので、山田総務課長及び工場長はその不当を詰り立退を要求したところ、自分等は此処で常会を開いているのだといつて動かず又一部の者はトラツクに背を向けてスクラムを組み阻止態勢を強化する挙に出た。この時工場長の要請により名古屋市南警察署長が来り組合幹部を呼び集め、道路上に坐り込む行為は違法であるから午後二時四十分までに立退くべきことを命じたので組合員は徐々に立去つていつた。しかるに今度は線材工場の製品置場において大会を開くと称し多数の組合員が製品の上に登つて坐り込みトラツクが近付こうとすると、今から大会を開く故組合員でない者は退去を求めると述べ入場を阻止した。トラツクの乘務員は何とかして製品置場に乘り入れようと進行を試みたが、多数の組合員が押し返し且つスクラムを組んで邪魔するので、午後四時二十分頃ついに積込作業を断念して引揚げた。

ハ 六月十五日午後五時半頃星崎工場の製品の需要者である名星工業、林工業及び愛知金鋼の各社の従業員がトラツク十五台をもつて製品の引取に来た。当日も工場の各門は組合員によつて固く閉鎖されており、会社側幹部の手でようやく入門することができた。

組合員はトラツクの入門を知るや続々と現場に集結し始め外部団体も相当数入場して来た。線材工場の西側へ向つた四台のトラツクの内一台は多少の抵抗を受けたが素早く積込を終り東門より出門に成功した。そこで組合側は東門に対しても妨害態勢を強化し、門に至る道路上には鉄屑や木材が横たえられた。後続トラツクがこれらの妨害物を排除しながら門に近付いたとき、突如二名の組合員がトラツクの前に坐り込み再三の要求にも拘らず立退かずトラツクはついに出門不能となつて引き返した。午後八時頃組合側は線材工場の南側道路上に全員集結し組合側、会社側及び荷主側が入り乱れて交渉を行つたが、組合側はあくまで製品の出荷を拒絶し交渉はまとまらなかつた。午後八時二十分頃組合側は南警察署長の勧告に従い、出荷妨害を継続するか否かについて全員大会を開き大衆にはかつたが、依然妨害を継続することとなり、双方対峙のまま夜を過した。かくする内荷主側は万難を排して積荷を決行しようと努力したが、内四台について成功した丈で残りのトラツクはやはり積込不能に終つた。そして十六日午前十時五十分頃警察官隊数百名が入場し来り、その援助によつて漸く積込作業を終り全部出門することができたのである。

(二)  以上のような状況で、星崎分会等の組合員は被申請人会社に対し度はずれて越軌的な争議行為をなし会社に対し莫大な損害を与えたので、被申請人会社は右争議解決後、組合指導者の責任を問うこととなり、昭和二十五年七月三日申請人大西章以下十六名を懲戒解雇処分に付したのである。即ち(1)申請人大西章は星崎分会の常任委員たる外連合会の執行委員長として組合における最高責任者の地位にあり、又本件争議開始後は中央闘争委員長に就任し星崎分会に対し前記出荷阻止指令を発し、同分会をして前敍のような違法な争議行為をなさしめたのである。尤も右指令の内容はその使用せられた文字に従えば単なる「出荷停止」であり必ずしも積極的行為による出荷妨害を命令したものでなかつたが、申請人自身右のような出荷妨害の結果の発生を予期しこれを是認していたことは、同申請人が六月十六日前示争議行為のまつ最中星崎工場第二工場における全員大会に臨み、組合員の行つている出荷妨害行為は正当なる争議行為である旨演説し組合員をげき励した事実によつても窺い得るのであつて、申請人は右結果の発生について責任を負うことを免れないのである。(2)申請人石川今市は星崎分会の副委員長であり全金属労組愛岐支部長を兼ね、なお、現在愛知県地方労働委員会の委員たる要職につき労働組合の健全なる運営と発展に挺身すべき指導的地位にあるに拘らず、前記のような違法な争議行為が行われているのを知りながらこれを阻止しようとせず、却つて六月十六日午前二時頃前掲林工業の従業員が組合員によつて引き下ろされた線材を再びトラツクに積載しようとした際、線材の輪に両脚を跨ぎ入れその積込作業を執ように邪魔して出荷妨害を積極的に援助していた事実を認め得るのであつて、同申請人も亦本件争議行為が適法な争議の限界を逸脱したことにつきその責任を囘避し得ないのである。(3)申請人加藤巴也は連合会の教宣部長であり、六月十六日星崎工場における出荷妨害事件の際分会員を指揮してバリケードの構築スクラム要員の編成をなし、又南門に集つた分会員に対して出荷妨害は合法行為なりと強調してこれをせん動し、なお会社幹部が開門せんとするや門を背にしてこれを拒否し開門せしめなかつた。(4)申請人丸山清利は星崎分会の組織部長であつて連合会の中央闘争委員を兼ねるものであるが、六月十日の出荷妨害に際し南門において分会員の指揮に当りスクラムをもつてトラツクを押し返した。又運転台のステツプに飛び乘つて運転手を脅迫し、車輪の前に石塊、鉄材、木材等を押し込み、なお一台のトラツクが方向転換をなすや運転手に対し「殺すぞ」と怒号し数名の組合員を指揮してこれに飛び乘り積載してあつた荷物を投げ落した。(5)申請人江端一雄は星崎分会の教宣部長であつて連合会の中央闘争委員の地位にあるが、六月十日の出荷妨害の際工場南門に集合した組合員に対し線材工場より来るトラツクをスクラムをもつて妨害すべきことを命じ、なお同日より同月十六日に至る間つねに組合員に対し出荷妨害を指令し、げき励していた。(6)申請人渡辺弘は星崎分会の書記長であり、六月十日工場東門において所属警備員に対し門を閉ずべきことを命じこれを制止せんとした山田総務課長に対し実力をもつて抵抗した。又トラツクが出門しようとするやその前に坐り込み運転不能にした外、東門附近の道路上に石材、木材等の障がい物を横たえ出荷妨害をした。(7)申請人鶴見貞美は星崎分会の常任委員たる外連合会組織部長の地位にあるが、六月十日午前十一時頃工場南門において分会員を指揮しスクラムを組んでトラツクを押し返した。(8)申請人蟹江彌太郎は星崎分会の青婦対策部長であり、六月十日工場南門において分会員を指揮しスクラムをもつてトラツクを押し返し、又トラツクが方向転換して東方に向つた際車輪の前に石材、木材等を押し込み運転を不能にした。なお今次争議中、青年行動隊長として隊員を指揮し工場各門の閉鎖及び障がい物の設置に活躍した。(9)申請人山田幹雄は星崎分会の常任委員であり、六月十日山田総務課長が出荷のため工場の門を開扉せんとするや門を背にして妨害し、又トラツクの車輪の前に石材、木材、ドラム鑵等を押し込み運転不能にした。(10)申請人仙波正男は星崎分会員であるが、六月十日分会員の先頭にたつてスクラムを組みトラツクの進行を妨害し、なお車輪の前に障がい物を投げ込んだ。(11)申請人龜谷幸正は星崎分会の常任委員であり、六月十日山田総務課長が出荷のため南門を開こうとするやこれを妨害し、又南門附近でトラツクの車輪の前に障がい物を投げ込んだ。(12)申請人仙波登は連合会の調査部長であるが、六月十日工場南門附近でトラツクの運行妨害のためバリケードの構築及びスクラム要員の編成等を指揮した。又六月十五日夜は組合員に対し出荷妨害行為の正当性を説示してこれをせん動した。(13)申請人加藤重治は被申請人会社大江工場分会の闘争委員であり、六月十日星崎工場南門において山田総務課長が開門せんとする際これを阻止し抵抗した。(14)申請人鈴木宗一は右大江工場分会の執行委員であり、六月十五日星崎工場東門においてトラツク出門の際その前に坐り込み幾度退去を命ぜられても退去せずその出門を不可能ならしめた。(15)申請人加藤賢三は星崎分会常任委員の外連合会の書記長を兼ね、六月十日、十四日及び十六日の三日にわたり星崎工場内の各所において分会員を指揮して出荷妨害に従事せしめた。(16)申請人土谷博明は連合会の中央闘争委員であるが、星崎工場出荷妨害事件の際常に分会員を指揮してトラツクの前に横臥する等の方法によつてその運行を妨害した。(なお同申請人は平素から無断で職場を離れ就業せぬことが多く、上長に注意せられても反抗し、四月十六日以後は全く不就業の状態であつた)。

しかして敍上のような各申請人の行為は、被申請人会社の従業員たる地位にもとりその職責をじゆうりんするものであつて、会社の従業員就業規則に照し、その責任を追及せられても止むを得ぬところであり、被申請人会社が申請人等に対する懲戒処分として解雇の処置に出でたこともあながち過酷と評し得ず、これを妥当として容認せねばならない。

二  なお申請人等の主張によれば本件解雇が無効なることの理由として、(イ)本件争議に関し昭和二十五年六月二十二日星崎分会代表者小池長之助外一名と被申請人会社労務担当責任者林達雄外一名とが会談し右争議の円満解決方を接しようした際「本件争議にからみ被解雇者を出さない。」旨の協定が締結せられた。(ロ)被申請人会社星崎工場長と星崎分会との間には昭和二十四年十二月二十八日附協定で「工場長の権限に属する人事については発令前に組合と協議する」ことになつていたに拘らず工場長は右手続を履践していない。(ハ)被申請人会社大江工場の就業規則にもとづく賞罰委員会規定によれば、同委員会の構成には大江分会代表者三名が出席せねばならぬに拘らず被申請人会社は同工場の従業員たる申請人仙波登、土谷博明、鈴木宗一及び加藤重治を懲戒解雇するにつき右のごとき構成の委員会を開いていないというのであるが、(イ)申請人等提出の各疏明資料によつても、本件争議に関して申請人等主張のような不法行為者の責任免除の協定が成立したことを認め得ない。(ロ)被申請人会社提出の疏明資料によれば、従業員の懲戒解雇はすべて本社の専権に属し工場長の人事権に委讓されていないことを認め得る。又(ハ)被申請人会社大江工場にはその就業規則の附属規定として申請人等主張のような賞罰委員会規定の存することを疏明するに足る資料がないから、申請人等の主張はいづれも失当であつてこれを排斥する外はない。

以上のような譯であつて、被申請人会社の申請人大西章以下十六名に対する解雇処分は一応有効と認められるのであり、右解雇処分の無効なることを前提とし解雇無効確認訴訟の本案判決確定に至るまで右解雇の効力の停止を求める申請人等の本件仮処分申請は結局その疏明なきに帰することとなるからこれを棄却することとし、主文第二項のごとく決定する次第である。

(裁判官 山口正夫 奥村義雄 杉山克彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!